海の砂漠化が深刻化――「生きたブロック」で漁業の未来を取り戻す

全国の海岸線で藻場が急速に消失する「磯焼け」が深刻化しています。沿岸漁業の衰退を招くこの現象に対し、再生素材から作られた「有機体ブロック」が千葉県鴨川市で実証を開始しました。従来のコンクリート製魚礁とは異なり、自然に分解されながら海の生態系を回復させるこのアプローチ。ビジネスとしても、地域経済としても注目される理由を解説します。

見えにくいが極めて深刻――海の危機「磯焼け」とは

日本の沿岸部で静かに進行している海の砂漠化をご存じでしょうか。「磯焼け」と呼ばれるこの現象は、かつて魚や貝を育んでいた海藻の森が消失し、海底がまるで砂漠のように変わってしまう状態を指します。水産庁の調査では、藻場が衰退していると答えた都道府県は全国の約8割に上ります。これは単なる環境問題ではなく、沿岸漁業の経営危機に直結する経済課題なのです。

海藻の森は稚魚や稚貝の隠れ家となり、産卵場所として機能します。つまり、海の生き物が育つための「土台」そのものです。これが失われると漁獲量の減少や地域漁業の衰退につながるだけでなく、海藻が担う「ブルーカーボン」機能(海中の炭素を固定・循環させる働き)まで失われてしまいます。1990年代以降、日本の藻場は減少傾向にあり、千葉県の鴨川市もその例外ではありません。

再生素材で自然に還る――新発想の人工魚礁

この課題に取り組むのが、山形県の株式会社環境内水面資源研究所が開発した「有機体ブロック」です。見た目は普通のコンクリートブロックですが、その中身は全く異なります。有機質成分や再生土壌などのリサイクル材を活用し、微生物や海藻が定着しやすい形状・質感に設計されています。従来のコンクリート製魚礁とは異なり、セメント使用を最小限に抑え、時間の経過とともにゆっくり分解され、最終的には砂状成分や無機栄養塩として海の自然循環へ組み込まれていく特徴があります。

既に山形県の酒田港での先行実証で成果が確認されています。設置から2ヶ月程度で藻類とフジツボが定着し、翌年9月には自然着生した牡蠣(80mm程度)が確認されました。現在では海藻が生い茂り、メジナやイシダイ、アジなどの群れが確認されるまでに回復しています。この実績が、次のステップである鴨川での本格展開へとつながったのです。

観光と自然再生の両立が問う「地域ビジネスの未来」

今回の実証が行われる千葉県鴨川市の鴨川フィッシャリーナは、従来の港湾ではなく、観光客も訪れるマリーナという「人と海が交わる空間」です。これが極めて重要なポイントです。プロジェクト関係者が問い続けるのは「人の利用と自然の再生は両立できるのか」という問いです。

鴨川は豊かな自然と漁業が地域の誇りであり続けてきた町です。地元の漁協、マリーナ、研究者が連携して行う本実証は「リジェネラティブな鴨川モデル」として、全国の沿岸施設への展開も視野に入れています。成功すれば、観光利用と生態系保全を両立させるビジネスモデルとして、他の沿岸地域へも波及する可能性があります。

実証で検証される5つのポイント

今後のモニタリングでは、以下の視点から検証が進められます。まず、海藻や付着生物がどのくらいの種類、数、速さで定着するかを測定します。次に、どのような魚が集まってくるか(蝟集効果)を観察します。さらに興味深いのは、害魚の天敵であるアオリイカの増殖が期待できるかという点です。これらのデータは、通常のコンクリート製魚礁との比較において、生態系レベルでの有効性を明らかにするために極めて重要です。加えて、ブロックがどのくらいの期間で分解されるか、そして生態系回復モデルとして実際に成立するかも検証対象となります。

地産地消のブロック開発へ――ビジネス展開の道

株式会社環境内水面資源研究所の将来構想は、国内にとどまりません。「有機体ブロック」は藻場の造成、磯焼け対策、牡蠣養殖との組み合わせ、沿岸の生態系保全など、幅広い現場への展開を目指しています。注目されるのは「地産地消のブロック」開発です。地域ごとの地形や潮流に応じた設計、その土地で生まれる素材を活かしたブロック開発を進めることで、地域経済の活性化にも貢献する可能性があります。海外への展開も視野に入れながら、「循環・効率・共創」を軸に、人と海が長く共存できる沿岸環境の実現を目指しています。

ビジネスパーソンが注目すべき理由

なぜこのプロジェクトがビジネスパーソンの注目を集めるのでしょうか。それは、単なる環境対策ではなく、新たなビジネス機会を生み出す可能性を秘めているからです。サステナビリティ経営が企業価値向上の重要要素となる中、地域漁業の再生と観光利用を両立させるこのモデルは、ESG投資の対象となり得ます。また、再生素材を活用した製品開発、地域ごとのカスタマイズ、国内外への展開と、多層的なビジネス展開の可能性があります。沿岸部の地域活性化を考える自治体やマリーナ運営事業者にとっても、実装可能な解決策として機能するでしょう。

※本記事は、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000165132.htmlをもとに作成しています。